2008.08.13

PHASE3-うごめく影 part3

 アスランは、カガリやキラと肩を並ばせて数人の兵士の後を付いて行っていた。
 相変わらずカーペンタリア基地は設備がすごい。
 さすがザフト軍地上最大の基地だけのことはあった。
 もちろん、そんなこと自慢にはならないのだが。

「な、なんだお前達は!!」

 すると、順調に進んでいた足をが止まった。
 この兵士の中で隊長と思われる者が、不振そうに声を荒げる。
 アスランがふと顔を上げると、黒い服をまとった者達数名が、進路を阻んでいた。
 しかも手には銃を持っている。
 カガリは、ぐっとアスランの服の裾を掴むと、ギッと黒服たちを睨みつける。
 しかし言葉は代表らしく穏やかだった。

「今我々は急いでいる。用がないのならどいてくれないか?」

 だが黒服達は何の反応もない。
 そして、チラリとアスランの顔を覗いた。
 ふと視線が合う。
  
 ――なぜ、なぜ俺を見るのだろう?
 ――否、なぜそんな鋭い目をして俺を睨むのだろう?

 今まで散々非難の眼は受けてきた。
 二度もザフトを脱走したのだ。その上、ザラ元議長の息子ときた。
 興味がない者のほうが少ないだろう。
 しかし、この視線は何だ?
 何か、今までとは、違う……。

「おい、お前、アスラン・ザラか?」
「えっ?」

 不意に自分の名を呼ばれ、アスランは目を見開いた。
 今この黒服が呼んだ名前は、キラでもなくカガリでもなく、俺?
 自然と、懐にある銃に手が移動する。

「やはりそうか。おい、アスラン・ザラ。まだザラ議長閣下への、父親への敬意があるのなら、我々と共にナチュラルを滅ぼさないか?」
「な、に?」

 アスランは、ごくりと生唾を飲み込んだ。
 キラとカガリも、驚いてアスランの顔を見つめる。

 パトリック・ザラ。元プラント最高評議会議長。アスラン・ザラの、父親。
 彼は、死ぬ間際までアスランの母親――レノア・ザラ――を殺したナチュラルを憎んでいた。
 憎んで憎んで、挙句の果てに死んでしまった。

 パトリック・ザラ死後も、ザラ派が活動しているのは知っていた。
 2年前のユニウスセブン落下テロ事件を考えても明白である。
 ――しかし、なぜ今更、俺に?

「何故忘れてしまった? ナチュラルなどが存在すれば、我々コーディネイターは静かに暮らすことはできないのだ。すべてはザラ議長閣下の教えのもと。アスラン・ザラ、お前なら分かるだろう? パトリック・ザラの息子であるお前には!」

 アスランは、ぐっと拳をつくり、口をつぐんだ。
2008.08.13

PHSE3-うごめく影 part2

 カーペンタリア基地は、混乱していた。
 集めてもいない情報、しかもオーブの機密情報のみが流れてきて、せき止めることもできずにいるのだ。
 
「おい、これは、これはどういうことだ!」

 カーペンタリアに来たばかりのシリル・アルベールは動揺を隠せなかった。
 状況を整理しようと司令室にきてみたのだが、状況は天で変わらない。
 シリルは思いっきり艦長席の背を叩くと、勢いのあまり白色の軍服が激しく乱れた。
 しかしシリルはおかまい無しに部下達に唾を飛ばす。

「何故止められない! 何があっても機密情報を覗くな。プラントとオーブにも連絡を取るんだ、早く!」
「アルベール隊長、オーブからアスハ代表らとクライン議員らが」

 すると、あたふたと動く兵の中から一人こちらに向かって叫んできた。
 
 ――アスハ代表とラクス様が、か。

 ちょうどいい。
 オーブの機密情報はアスハ代表にまかせ、詳細はラクス様と話そう。
 シリルは一兵に頷くと、回線を全て開けてカーペンタリア基地に指示をだした。

「こちら司令室。カーペンタリア基地全土に指示を出す。今こちらにクライン議員とアスハ代表が向かっている。引き続きブラント隊は機密情報の保護を。ビジャ隊は至急クライン議員らのお迎えに。その他は今まで通りの仕事につき直せ」

 シリルのその一言で、基地の混乱は一旦収まった。


 ――――


「クライン議員、アスハ代表。お待ちしておりました。では来て早々申し訳ありませんが、こちらも混乱しております。クライン議員は司令室へ。アスハ代表は機密情報の……」
「ええ、わたくし達も状況は察しています。オーブの機密情報はどこへ流れているのですか?」

 ラクスは顔色一つかえず、たんたんと言った。
 しかし、そんなラクスと違いカガリは気が気でない。
 自分の国の情報が漏れている。
 しかも何者かが故意的に盗んでいるのだ。

「はい、えぇっと、この基地最大級のグレートホウプという艦で……」
「それは何処だ?」

 カガリは慌ててついつい口を開いた。
 シンが呆れたようにカガリの顔を盗み見る。
 するとキラがカガリの横に立って思い出したように言った。

「ほらカガリ、ここに来る前大きな青い艦があったじゃん。あの艦じゃないかな?」
「ではキラ。キラはカガリさんとアスランと一緒にそちらへ。わたくしとジュール隊長らは司令室へ向かいます」

 ラクスはそう言ってにっこり笑うと、きびすを返した。
 イザークやディアッカ、シンとルナマリアもその後についていく。
 カガリは、そんなラクスの背中から視線を逸らすと、アスランやキラと顔を見合わせ頷いた。

 ――早く、オーブを助けなければ。

 誰かの手に奪われる前に。
2008.06.16

PHASE3-うごめく影 part1

 オーブでの爆破テロについては、プラントにも耳に入っていた。
 あの平和な、殺人はあったとしても、内乱さえ全くないオーブでのテロ。
 コーディネイターとナチュラルも、以前と比べたらずいぶん仲良くなったほうだった。
 それなのに、なぜテロなど起こるのだろうか。
 『宗教』というのも考えられたが、オーブはハウメア教、もしくは何も信仰していなかった。
 
「母さん、オーブでテロだってさ。なんでテロなんて起こったのかな? あんなに平和な国なのにね、オーブは。マリュー姉さんとかムウ兄さんとかもいるのにね」
 
 セリムは、複雑な心境で母――タリアが微笑む写真を見つめた。

 先の大戦が終ってから、セリムの家に急に客が現れた。
 その人達はセリムの事を知っているようだったが、セリムは全く知らなかった。
 それもそのはず。
 その二人は、直接ではないにしろ、間接的に母親を殺した人物だったのだから。
 初めて母が死んだ時は、何日も何日も泣きくれた。
 しかし不思議なことに、この二人――マリューとムウ――に会ってから、涙が出ることはなかった。
 普通は仇討ちとかなんとかで、二人を恨んでもよかったのに。
 マリューは言った。

 ――貴方の母、グラディス艦長からの遺言。それはね――私達が直接聞いたわけじゃないんだけど――息子……貴方に会ってあげて……。その一言だったそうよ。

 はっきり言って、父はセリムの事も母の事も、どうとも思っていない。
 もちろん母も、そしてセリムもそれに気付き、無視していた。
 母が死んでから、セリムの予想通り父は遊んで、遊んで、遊んで…その毎日を繰り返している。
 だからこそ、この母の遺言を聞いたとき、母に感謝した。
 ――ああ、そうか。母さんは僕のこと大切にしてくれてるんだ。この人たちに託してくれるんだ。一人ぼっちにしたりはしないんだ。
 と。

「マリュー姉さんも、ムウ兄さんも、元気かなぁ」

 母の写真をじっと見つめながら、ポツリとセリムは呟いた。
 その瞳は悲しげに笑っている。
 ――母は、今こうして軍服を着ている自分をどう思っているだろうか。
 母はいつもこう言っていた。

 ――戦ってはダメよ。もし貴方が危険な目にあったら、母さんや皆が守るから、ね?

 なのにセリムは戦っている。軍服を着ている。
 それは何より、母が誇らしかったから。真似をしたかったから。
 母のように、強くありたかったから。

「僕、母さんや、マリュー姉さんやムウ兄さんみたいになりたいんだ。強くなりたいんだ」

 セリムは、そう誇らしげに言うと、ニッコリ微笑んだ。
 その笑みは15歳にして決断力のあるものだった。