2008.05.30

PHASE2-奪われた翼 part5

 カガリ達は、内閣府官邸に戻ったかと思うと、すぐさまAAと向かった。
 停戦後、AAに一度入った事があるルナだが、どこからかあの戦争の苦しさが染み渡るのを感じた。
 それと共に、絆や希望といったものが自然と心の中に入り、さっきの悲惨な光景が一瞬頭から抜けた。

「ラミアス艦長、オーブのデータが流出しているというのは本当か!」

 カガリが、勢いよくラミアス艦長に迫る。
 その声で、はっと我に返るルナマリア。
 ラミアス艦長は、けわし気に眉間にシワを寄せると、コクリと頷いた。

「ええ。それも、どこへ流れているか分からないの。必死に探してるんだけど……」
「流出は止めたか?」
「ええ、もう大丈夫」
「どうしてこんなミスを…あんなことが、あった、ばかりなのに……」

 カガリは、ぐっと拳を作ると、歯を食いしばった。
 すると、そのすぐ脇からキラが現れる。
 そしてラミアス艦長と目を合わせると、流出先を突き止める手伝いをしだす。
 ――確か、こういう事についてはヤマト隊長のほうがアスランよりも得意なんだっけ。
 ルナは、軽々しくそんなことを考えた。

「ちっ、裏の回線から…それも、見落としがちな小さな回線だ。それに、居場所がばれないよう途中で……」

 よくわからないが、キラがぶつぶつと何かを呟いていた。
 そして、指が見えないような速さでキーを打つ。 
 その間、アスランとカガリ、ラミアス艦長は、爆発の件について話していた。

「テロ? そうとうひどいの?」
「はい。バスに乗ってた人は、誰も――」

 そこで苦しげに首を振るアスラン。
 誰も生きていなかった、ということだ。
 カガリは、悲しげな目でアスランを見上げる。

「テロ……それにデータ流出か。ちっ、面倒くさいっ」

 イザークは、舌打ちをしてえらそうに腕を組む。
 しかし、その奥深くでは不安や悲しみが渦巻いているだろう。
 あまり表に感情を出さないのが、また彼のいいところなのだ。
 すると、急にキラが顔を上げた。

「マリューさん、流出先が分かりました。えっと――え? この位置は……」

 何に驚いたのか、目を見開いたまま固まるキラ。
 ラクスは、そんなキラに駆け寄ると、画面を覗き込む。
 そしてキラと顔を合わせると、彼女に珍しく眉間にシワを寄せた。

「カーペンタリア、ですか?」
「うん。多分……」

 すると、イザークが驚いて声を上げた。
 組んでいた腕をはずし、キラの肩をぐっと掴む。

「おい、カーペンタリアだと? ならお前はザフトがオーブのデータを奪ったというのか?」
「イザーク、カーペンタリアだからってザフトが奪ったとは断言できないよ」
「なら、誰が大量のデータをもっていったというんだ?」
「う〜ん、それは……」

 言葉に詰まってラクスの顔を見やる。
 そして首を振った。

「とにかく、今はまだ何もいえないよ。……カーペンタリアならココからそう遠くない」

 キラはカガリの顔を見つめた。
 そして軽く首をかしげてみせる。
 カガリは、キラの言いたい事を理解したのか、勢いよく頷いた。

「行こう。ラクスや隊長が二人もいるのだから、オーブの者でも通してくれるだろう」

 それにあわせて、ルナマリアもぐっと頷いた。
 そしてシンの顔を見る。
 シンも、ルナに微笑みかけると頷いた。
 皆同じ意見、という事だ。
 するとラミアス艦長は穏やかな笑みを見せると言った。

「分かったわ。テロの事は私達のほうで探ってみます。ただのテロだと、いいんだけど……」
「この流出とテロが重なったのが偶然だったらいいんだけどねぇ」

 少し不安そうに言うラミアス艦長の横からフラガ一佐が軽々しくそう言った。
 しかし、言っている内容がそれいじょうに重い。
 そう、そうなのだ。問題はそこだ。
 ――データを盗む為にテロを起こしたのではないか。
 みんな、そのことを深く疑っていた。
2008.05.26

PHASE2-奪われた翼 part4

 一方、ここはアークエンジェル。
 マリューは、ちょうど政府から帰ってきていた。
 朝からずっと会議だったらしく、眠くてたまらない。
 すこしコックピットによってから、自室で睡眠を取らなければ。
 優雅にそんなことを考えながら、マリューはコックピットへ入った。
 すると、いきなりノイマンの叫び声が聞こえる。

「どうしたの、何かあったの?」

 とっさに顔を青くするノイマンに駆け寄りたずねる。
 ノイマンは、マリューが帰ってきたことに気付くと、画面を見せながら手短く言った。

「ジャスティスやアークエンジェル、いや、それだけじゃない……オーブ軍のデータが多数流出しているんです」
「なんですって?」

 マリューもそれを聞いて、ノイマンと同じく顔を青くした。
 ――軍のデータが流出だなんて、そんなことが……
 
「一体どこに流出してるのか突き止められる?」
「ええ、やってるんですが……」

 突き止められない、か。
 ということは、相手は相当“腕前がある”らしい。
 
「おいマリュー、なんか外がやばいことになって、って、どうした?」

 何かをマリューに愚痴りに来たのか、ムウがコックピットに入ってきた。
 マリューは無言でムウを手招くと、画面を見せる。

「――これは……データが流出? 一体何処の馬鹿だ?」

 マリューは首を振った。
 
「分からないわ。でも、早く政府に…カガリさんに伝えないと。今カガリさんは何処にいるか分かる?」
「そう、俺今それを言いに来たんだ。お姫様は坊主達と一緒にオロファトへ行ったんだが、そこでバスが大爆発したみたいで大騒ぎなんだ。なんでもテロだって……」
「テロですって? それでカガリさんたちは無事なの?」
「ああ、なんとかな」

 マリューは額に手を当てると深くため息をついた。
 どうやら、自室で優雅にお昼寝は無理なようだった。


 ――――


「カガリ…ラクス? 来たのか――」
「おい貴様、これは、これは一体どういう騒ぎだ! なぜ、車がそこら中に転がっているんだ!」

 イザークは、アスランに掴みかかると共に怒鳴った。
 イザークが動揺しているのが十分に分かった。
 アスランは、そんな態度のイザークを見ても、口を開けずにいる。
 
「ああ、だから……“こういうこと”だ」
「なんだと貴様あぁ!」
「アスラン――」

 ありありと怒りをあらわにしながら叫ぶイザークと対処に、カガリは呆然とコチラを見つめた。
 そんな表情のカガリを見てずきりと胸が痛む。
 ――似ている、あの時と
 父親が亡くなった時のように、苦しみを押し殺している。
 アスランは、無理にカガリに笑いかけた。
 すると、ラクスがキラに向かって言った。

「キラ、私達は一旦戻ったほうがいいでしょう。政府のほうに戻れば何か分かるかもしれません」
「うん、そうだね」

 キラはゆっくり頷くと、カガリの肩を軽く叩いた。

「戻ろう。シンも、ルナも、イザーク達もそれでいいよね?」
「はは、どうせ嫌だとは言わせてもらえないんだろ?」

 ディアッカは苦笑気味にそういいつつも、コクリと頷く。
 他の皆も、あのイザークでさえ、もちろんといった表情で頷いた。
2008.05.18

PHASE2-奪われた翼 part3

 シンは、目の前の光景に目を見開いた。
 車は転倒し、あたりから人のうめき声が聞こえる。
 ――あの時と、同じ
 シンは自分の体がすくみ上がるのが分かった。
 いたるところから吐き出される煙、血、うめき声。

 2年前に、アスランに言われた言葉がある。
 “過去に囚われるな”と。
 でも、それでもやはり、過去の記憶は消えやしない。
 母さんや、父さんや、マユが死んでしまった記憶は。

「くそっ、一体、何が――」

 シンは頭を左右に振ると、キラやアスランの姿を探した。
 二人の姿を探している時、目の端に苦しむ人々の姿がちらつく。

「何処だよ、あの人たち……」

 ふと中央で転倒するバスの端に、茶色い髪の毛がちらついた。
 その直ぐそばで、青い髪の毛も目に入る。
 
「あそこだ」

 シンは、急いでバスに駆け寄った。
 バスに近づくにつれて、煙の量が多くなる。

「キラ、アスラン!」

 服で口を押えながら、シンは大声で呼んだ。
 その声に反応して、アスランがこちらに振り返る。

「シン! 来たのか」
「当たり前だろ! それより、……これは一体なんなんですか?」
「それは、分からない…。急にバスが爆発したらしいんだ。ガス爆発か、もしくは……」

 ――バスがガス爆発だ?
 んなダジャレみたいなことが現実にあってたまるか。
 
「もしくは、なんですか」

 もしくは――の続きをちゅうちょして言わないアスランに、シンは苛立ちを覚えた。
 ――本当にこの人は俺を苛立たせるのが得意なようだ。
 すると、シンの心情を察してか、アスランに変わってキラが答えた。

「もしくは……計画的に行われた、爆破テロ」
「テロ? この、中立のオーブでですか?」

 いや、この中立のオーブだから、なのかもしれないが。
 まさかオーブでテロだなんて。
 オーブでテロが起こるなんて、戦争時ならまだしも、なぜこう平和な時に?

「詳しくは分からない。とにかく、今は怪我人を助けるのが最優先だ」
「救急車は?」
「ついさっき呼んだよ」

 ――この際、計画的なテロよりも、バスがガス爆発のほうがいい。
 過去の記憶が消えない為か、シンは誰かが人工的に流させる血というのを極端に嫌っているのだった。
 そういうものに対しては、恐怖さえ覚える。
 もしこれが本当にテロだったら、真面目にラクス・クラインの護衛をすることになるかもしれない。
 シンの心の中は、不安で一杯になるばかりだった。


 ――――


「アスラン……」

 カガリはそう静かに洩らした。
 それに気付いた、ラクスは、カガリの肩をとんと叩く。

「ここで待つなんて、私達に出来るわけありませんのに。心配なのでしょう? 外で何があったのか。カガリさん、行きましょう」
「ラクス……」

 ラクスは、そうやってカガリに言いつつ、自分も心配しているだけというのに気付いていた。
 心配で心配でしょうがない。
 そしてなのより不安だった。
 さっきの爆発音、震動からして、そうここから遠くはない。寧ろすぐ傍だろう。
 そんな危険なところに、あの三人だけで行ってしまうなんて――
 キラ達にとったら、きっとラクス達を危ない目にあわせないためなのだろうけど、彼女達にとったら、それが逆に不安になるのだ。
 ――危険だからこそ、傍にいてほしい

「あいつらぁ〜俺を差し置いて! 何が“アスラン!”“ああ、分かってる!”だぁ?」
「おいおい、落ち着けってイザーク」
「おいラクス・クライン! 一応俺達はお前の護衛役なんだ。一人になられたら困る! 俺はあいつらのところへ行く! 一緒に来い!」
「ってイザーク、なんでお前、そんなん無理に決まって――」
「構いませんわ。皆さんで行きましょう」
「ええ! ちょっと……はぁ……ったく」

 ラクスは、イザーク、ディアッカ、ルナマリア、そしてカガリの顔を見つめるとコクリと頷いた。

「嫌な予感がします」
2008.05.16

PHASE2-奪われた翼 part2

 シンは、呆然とアスランとキラを見送った。
 それと共に、外から悲鳴が飛んでくる。

 シンは、二人の背中が遠ざかる程、ふつふつと煮えたぎるような思いが湧き出てきた。
 ――ラクス達は待っててだ? もしかしてそのラクス達に俺の事も入ってるのかよ!

「ルナ待ってて。あの人達だけだと心配だから」
「え、ちょっと、シン!」

 ルナは、駆け出そう行こうとするシンの袖を掴んだ。
 それでもシンは微かに笑うと、イザークに言った。

「ジュール隊長もお願いします」
「なっ何を、シン、貴様! おいちょっと待て!」

 必死にイザークが呼んでも、シンには届かない。
 今のシンには、あの爆発音が家族が死んだときの爆発と重なっていた。
 ――呼んでる
 シンにはそう思えてならなかった。

  
 ――――


「これが…。やっぱりすごいですね、クライン派の勢力って!!」
「一体どこからこんなものをつくる金を集めたのだか知りたいものだ……」

 ヘルマン・グールドは深くため息をついた。
 それとは対照的に感嘆を洩らす、セリム・グラディスは、本当にまだ幼いと思う。
 確かにこれらは素晴らしい技術だ。
 独自で開発したのにもかかわらず、ディスティニーやレジェンドなどにも匹敵したという。
 しかし、そこまで興奮されてはこちらも困る。

「VPS装甲に、HDエンジン搭載……。その上、操縦者に合わせて開発しているし、ミーティアとの連携運用が可能。勿論この二機が強いのはそれだけじゃなく、やっぱり操縦者が凄いんですよ」
「ええ、まあ」
「でしょう?  僕は、特にアスラン・ザラに一度お会いしたいと思っているんです」

 セリムは、目を輝かせながらそう語った。
 セリム・グラディス、15歳。母、タリア・グラディスが軍人であったこともあり、伝説のエースパイロットといわれた、アスラン・ザラに憧れて入隊を志願。
 今では士官学校を首席で卒業し、立派な軍人としてプラントにいる。
 グルードは、そんなセリムを見て呆れたような顔をした。

「なぜアスラン・ザラなんだ? 私はアスラン・ザラよりもキラ隊長のほうが強いと思うんだが」

 するとセリムは、これだから大人は…とでも言うような目つきでこう言った。

「そりゃそうでしょう。実力はキラ隊長のほうが確実に上です。しかし、アスラン・ザラはとても精神的に強い方だと思うんですよ」
「なぜだ?」
「なぜってそれは…、二度も議長に裏切られて、殺されそうになっても、婚約者に振られても、挫けず今もオーブで国の為に軍に所属しているんですから」

 グールドは、必死に噴出すのを堪えていた。
 こんな風に言われているのをアスラン・ザラが知れば、相当傷付くだろうに。
 しかしセリムには全く悪気が無いらしく、熱くアスラン・ザラ“様”について語っている。
 ――これだから子供は……

「あ、ところでグールド議員。なぜ僕などにフリーダムやジャスティスのデータを見せてくれたのですか? これらの情報はクライン派が厳重に管理しているはずでは――」
「あ、いや、いいんだこれは。私達は君に期待しているんだよ。なんといってもタリア・グラディスの息子だからね。君には強くなって欲しい。また戦争なんて起きるとは思えないがね」
「は、はい! ありがとうございます!」

 セリムは、グールド議員に褒められて、顔が嬉しさのあまり真赤になった。
 骨格が引きつるように上がる。
 そして頭を深く下げると、スキップをしながらその場から立ち去った。

「期待……か。何も知らないことよりも、平和なことはないな……」

 グールドは、ちらりと二つのデータを見やった。
 ZGMF-X20A ストライクフリーダムガンダムと、ZGMF-X19A インフィニットジャスティスガンダム。
 そしてにやりと笑うと、本当の目的の為にデータを写すとその場から離れた。 
2008.05.12

PHASE2-奪われた翼 part1

 アスランとキラは、目を見開き息を呑んだ。
 銭湯が、こうして平然と建ったままなのが不思議な気分だった。
 道路を走っていたと思われる車は、数メートル先に多数ひっくりかえっていた。
 中に人が居るのか、生きているのか死んでいるのか、ここからでは全く検討がつかない。
 その横では大型バスが黒い煙を吐き出しながら横たわっていた。
 アスランは、近くで人のうめき声を聞いてはっと我に返った。
 左を振り向くと、腕を押えて出血を止めようとしている男性がいた。

「大丈夫ですか? な、何があったんですか?」

 アスランは、その人に駆け寄りその人の体を支えた。
 キラもあとからよってきて険し気な顔をする。
 その男性は、痛々しく顔を歪ませつつ必死になって答えた。

「急に…バスが爆発したんだ……まだ中に…人が……」
「バスが…!?」

 アスランとキラは顔を見合わせた。
 バスが急に爆発するなんて。
 衝突したわけでもないのに。

「アスラン、まだ生きている人が居るかもしれない」
「ああ…分かった」

 アスランは、その男性をそっと道路の脇に座らせると、バスに向かった。
 火はでていないが、煙の勢いが止まらない。

「せっかく綺麗に洗っても、これじゃあすぐにボロボロだな…」

 煙を吸い込まないように口を手で押さえてバスを覗き込む。
 動く人影が見えないか必死に目を凝らすが、見つからない。
 もしかすると、全員――
 アスランは、背筋に冷や汗が流れるのを感じた。


 ――――


「正義感、か。そこだけは評価してやってもいいだろう」

 ライルド・スルーは、爆発を見てクスリと笑った。
 後ろで一つに束ねてある自分の長い黒髪をゆっくり撫でる。
 黒いスーツは、彼の心の内を表しているようだ。

「アスラン・ザラ。確かに《正義――ジャスティス》のパイロットにふさわしい。だが……」

 そこでにやりと骨格を持ち上げる。
 声にさえならない笑い声が聞こえてくる。

「父親を裏切ってまで貫くものかね、正義とは。時として正義は人を惑わす」

 パトリック・ザラ。かつてのプラント最高評議会議長、そして、ナチュラルを憎み続けた男。
 パトリックは最期まで報われなかった、とライルドは思う。
 ナチュラルを滅ぼすことが出来ない上に、妻が死に、息子に裏切られ、憎しみに囚われたまま死んだ。
 まだ生きていれば、互いに支え合うことが出来たかもしれないというのに。
 まあ、支え合うといっても、自分が一方的に利用するだけだが。

「君とも支え合いたいものだよ、ザラの息子。そして、キラ・ヤマト――」

 その瞬間、ライルドの目に冷たい光りが走ったように思えた。
2008.05.09

PHASE1-芽生える焔 part5

「ちっ、なぜ女というのはこうも風呂から出るのが遅いんだ!!」

 イザークは机を叩きつけて、椅子を後ろへ吹っ飛ばして立ち上がった。
 整えられた髪にはタオルがまかれており、服は丸に“湯”と書かれた浴衣を着ていた。
 ディアッカは、あんな調子で立ったり座ったりするイザークに呆れてため息をつく。

「体の隅から隅まで丁寧に洗ってるんだろうよ。そんなに気になるなら覗いてこればいいじゃん」

 そしてクスリと笑う。
 イザークは、ディアッカが冗談半分で言っていることを分かっていつつも、ついつい顔を赤くした。

「なっ、何を言う貴様!」
「あれっ、顔が赤よイザーク。何を想像してるんだかな〜」
「うるさい!」

 ちらりとこちらを向いたディアッカに、イザークは赤面しながら怒鳴った。
 右手には拳がつくられ、今にも振り上げられそうだ。
 ディアッカは、両手でイザークを制して、何度も悪かったと言い苦笑いした。

「おい、イザーク、ディアッカ。ここには俺達と違って一般庶民の人達も居るんだから、あんまり騒ぐなよ。こっちまで迷惑がかかる」
 
 すると、右側の席に座っているアスランは、優雅にお茶を飲みながらそう言った。
 イザークとディアッカを見据えるその目はいかにも『呆れた』『昔と変わらず……』と物語っている。

「気にしなくていいよ、アスラン。イザークはプラントでもずっとこんな感じだから」
「えっ、やっぱりそうなのか」
「ええ、もうずっとこんな調子です。ジュール隊長の下で働いているシホがかわいそうですよ」
 
 シンとキラとアスランとで勝手に話し出してしまう三人にイザークはカッとなった。

「なんだと貴様ら〜! だいたい、なんでいきなりオーブへ来て温泉なんだ。普通は行政府に挨拶に行くとか、元首相の墓に行くとかそういうところから始めるだろ!」
「この件については、政府には何もいっていないからな。挨拶なんて逆に相手に迷惑がかかるだけだろ。それにウズミさんの石碑もこの後に寄るんだから…なんでお前はそんなにカッカしてるんだ?」

 ――誰のせいだ馬鹿者!
 すっとんきょんな顔をしているアスランに、そう怒鳴ってやりたいのを必死に堪えるイザーク。
 その横で、ディアッカとキラ、シンはたまらず噴出したのだった。

 ――――10分後

「ごめんなさい。遅くなってしまって…」

 ラクスが女湯からやっと出てきた。
 肩にタオルをかけて、髪を後ろで結んで背中に髪がかからないようにしている。
 その後ろからは、カガリとメイリンが順に出てきた。
 三人とも丁寧に浴衣を着ている。

「ああ〜すっきりした。でもすごいのねオーブって。こんなに大きなお風呂があるなんて私知らなかった。カガリさんはいつもこんなお風呂に入ってるの?」
「まさか。普段はプラントと同じようなお風呂さ」

 するとシンがため息まじりに言った。

「プラントには温泉なんてないからね。もしかして、風呂長引いたのってルナのせい?」
「だって、すごく気分良くてさあ〜」

 ルナは人差し指をわざとらしく立てるとにこやかに言った。
 イザークはそんなルナの態度に苛立っているらしく眉間にシワがよっている。
 その横ではディアッカがイザークの肩を軽く叩いていた。
 
「まあまあ、落ち着けってイザーク。いいじゃん? 別に急いでるわけじゃないんだし」
「俺は常に落ち着いる!」

 ――どこがだよあの人。
 シンは醒めたような目つきでイザークを見つめた。
 やっぱり元ザフトレッドって変わり者ばかりだ。
 アスランみたいに真面目すぎな奴もいるし、ディアッカみたいに保母さんみたいのもいるし、イザークみたいに落ち着き無いやつもいるし。
 そう思うと今のザフトレッドって、ずいぶん落ち着いてる気がする。

 するとカガリは、ぐっと伸びをして言った。

「それじゃ、そろそろ行くか。もうお昼時だし――」

 カガリがそう言おうとした瞬間に、すさまじい音が響いた。
 激しい揺れが起こる。
 地面が揺れているわけでなく、大気全体が揺れている感じだった。 
 シンははっと顔を上げると、何かが襲ってくるわけでもないのにとっさに身構えた。
 額に冷や汗が流れる。 
 ――今のこの感じ……まるで何かが爆発したような音だ。

「キラ、今の音、爆発音……だよな?」

 アスランもシンと同じことを感じたのか、キラに問いかける。
 するとキラは顔を見合わせるとゆっくり頷いた。

「おいおい、やめてくれよ……」

 ディアッカはまだ濡れている頭をかいて、ぼそっと呟く。
 
「ラクス達はここで待ってて。アスラン!」
「ああ、分かってる」

 キラはそういうと、アスランと一緒に銭湯の外にかけて行った。
 これがまた、新たな始まりになるとも知らずに――