2008.08.13

ニコル

 ザアアッ――

 風が吹く。
 するとアスランの藍色の髪は綺麗に流れた。
 しかし、それは悲しそうに空を舞っているようにも見える。

「ニコル……」

 アスランは今、墓の前に来ていた。
 石像には、ニコル・アマルフィと彫ってある。
 ニコルの墓だった。

 ニコルは、まだ15で、それなのにプラントの為に必死に戦っていた。
 なのに、戦いの末、アスランの親友であったキラに討たれ、死んだ。
 殺された当時は、キラが憎かった。そして、実際に殺しかけた。
 でも、今二人は生きている――
 アスランは、今キラが生きていてよかった、と思った。
 多分あの時キラを殺していたら、ずっと罪の意識を感じながら生きることになったと思うから。

「ニコルって…どんな子だったの?」

 キラはポツリといった。
 そしてアスランの肩にそっと手をのせる。

「ニコルは……、ピアノが好きで、お母さん思いで、プラントの為に戦う、良い奴だった…」

 アスランは、自分の胸が苦しくなってきたのを感じた。
 でも、なんとか頭をふり、それを振り払う。
 死んだものは二度と生き返らない。二度と――
 ふと、アスランは腕時計に目をやった。

「……あと3、2、1……」

 ザアァッ――風が吹く。

「ニコル、誕生日おめでと......」

 アスランは、にっこりと微笑んだ。
 その笑みは嬉しそうに、そして悲しそうだった。
 
――3月1日。そう、今日はニコルの誕生日なのだ。

 アスランは、数秒後、ふと顔をゆがめた。
 そしてその顔を隠すかのように、すっと俯く。
 肩が震えている。
 ――泣いていた。

「アスラン……」

 キラは、そのままアスランの腰に手を伸ばして泣きあった。
 
「ごめんね…アスラン、ニコル……」
「いや、違う、違うんだ!キラは、キラは悪くない、俺が……」

 ――俺が強くなかったから、ニコルを殺した。
   俺が弱かったから、ニコルは俺を庇って――

 アスランが、そう言おうと喉を詰まらせる。
 でも、涙でなかなか話せなかった。

「アスラン、君は悪くない。僕が、殺したんだ……」

 そう言って、キラはアスランに向き直ると、そっと口づけた。
 アスランは、びっくりして目を見開く。
 でも、抵抗はしなかった。
 ただ泣きながら……互いに慰めあうように……。

 そっと二人は、見つめあいながら離れた。

「もう僕は…君にこんな思いをしてほしくないから……」

 キラは、笑っていった。
 とてもその笑みは輝いていた。
 アスランは、そろそろ止まりだしたはずの悲しみがまた溢れてくるのを感じる。

「…キラ……」

 涙声で、かすれて何も出ない。
 でも、これだけは言いたかった。

「ありがと......」


――――後書き
私に珍しくシリアスなキラアスになりました(っていうかキラアスキラ)。
ニコルごめん。
貴方の墓を荒らしてしまいました…トホホ。

2008.08.13

PHASE3-うごめく影 part3

 アスランは、カガリやキラと肩を並ばせて数人の兵士の後を付いて行っていた。
 相変わらずカーペンタリア基地は設備がすごい。
 さすがザフト軍地上最大の基地だけのことはあった。
 もちろん、そんなこと自慢にはならないのだが。

「な、なんだお前達は!!」

 すると、順調に進んでいた足をが止まった。
 この兵士の中で隊長と思われる者が、不振そうに声を荒げる。
 アスランがふと顔を上げると、黒い服をまとった者達数名が、進路を阻んでいた。
 しかも手には銃を持っている。
 カガリは、ぐっとアスランの服の裾を掴むと、ギッと黒服たちを睨みつける。
 しかし言葉は代表らしく穏やかだった。

「今我々は急いでいる。用がないのならどいてくれないか?」

 だが黒服達は何の反応もない。
 そして、チラリとアスランの顔を覗いた。
 ふと視線が合う。
  
 ――なぜ、なぜ俺を見るのだろう?
 ――否、なぜそんな鋭い目をして俺を睨むのだろう?

 今まで散々非難の眼は受けてきた。
 二度もザフトを脱走したのだ。その上、ザラ元議長の息子ときた。
 興味がない者のほうが少ないだろう。
 しかし、この視線は何だ?
 何か、今までとは、違う……。

「おい、お前、アスラン・ザラか?」
「えっ?」

 不意に自分の名を呼ばれ、アスランは目を見開いた。
 今この黒服が呼んだ名前は、キラでもなくカガリでもなく、俺?
 自然と、懐にある銃に手が移動する。

「やはりそうか。おい、アスラン・ザラ。まだザラ議長閣下への、父親への敬意があるのなら、我々と共にナチュラルを滅ぼさないか?」
「な、に?」

 アスランは、ごくりと生唾を飲み込んだ。
 キラとカガリも、驚いてアスランの顔を見つめる。

 パトリック・ザラ。元プラント最高評議会議長。アスラン・ザラの、父親。
 彼は、死ぬ間際までアスランの母親――レノア・ザラ――を殺したナチュラルを憎んでいた。
 憎んで憎んで、挙句の果てに死んでしまった。

 パトリック・ザラ死後も、ザラ派が活動しているのは知っていた。
 2年前のユニウスセブン落下テロ事件を考えても明白である。
 ――しかし、なぜ今更、俺に?

「何故忘れてしまった? ナチュラルなどが存在すれば、我々コーディネイターは静かに暮らすことはできないのだ。すべてはザラ議長閣下の教えのもと。アスラン・ザラ、お前なら分かるだろう? パトリック・ザラの息子であるお前には!」

 アスランは、ぐっと拳をつくり、口をつぐんだ。
2008.08.13

PHSE3-うごめく影 part2

 カーペンタリア基地は、混乱していた。
 集めてもいない情報、しかもオーブの機密情報のみが流れてきて、せき止めることもできずにいるのだ。
 
「おい、これは、これはどういうことだ!」

 カーペンタリアに来たばかりのシリル・アルベールは動揺を隠せなかった。
 状況を整理しようと司令室にきてみたのだが、状況は天で変わらない。
 シリルは思いっきり艦長席の背を叩くと、勢いのあまり白色の軍服が激しく乱れた。
 しかしシリルはおかまい無しに部下達に唾を飛ばす。

「何故止められない! 何があっても機密情報を覗くな。プラントとオーブにも連絡を取るんだ、早く!」
「アルベール隊長、オーブからアスハ代表らとクライン議員らが」

 すると、あたふたと動く兵の中から一人こちらに向かって叫んできた。
 
 ――アスハ代表とラクス様が、か。

 ちょうどいい。
 オーブの機密情報はアスハ代表にまかせ、詳細はラクス様と話そう。
 シリルは一兵に頷くと、回線を全て開けてカーペンタリア基地に指示をだした。

「こちら司令室。カーペンタリア基地全土に指示を出す。今こちらにクライン議員とアスハ代表が向かっている。引き続きブラント隊は機密情報の保護を。ビジャ隊は至急クライン議員らのお迎えに。その他は今まで通りの仕事につき直せ」

 シリルのその一言で、基地の混乱は一旦収まった。


 ――――


「クライン議員、アスハ代表。お待ちしておりました。では来て早々申し訳ありませんが、こちらも混乱しております。クライン議員は司令室へ。アスハ代表は機密情報の……」
「ええ、わたくし達も状況は察しています。オーブの機密情報はどこへ流れているのですか?」

 ラクスは顔色一つかえず、たんたんと言った。
 しかし、そんなラクスと違いカガリは気が気でない。
 自分の国の情報が漏れている。
 しかも何者かが故意的に盗んでいるのだ。

「はい、えぇっと、この基地最大級のグレートホウプという艦で……」
「それは何処だ?」

 カガリは慌ててついつい口を開いた。
 シンが呆れたようにカガリの顔を盗み見る。
 するとキラがカガリの横に立って思い出したように言った。

「ほらカガリ、ここに来る前大きな青い艦があったじゃん。あの艦じゃないかな?」
「ではキラ。キラはカガリさんとアスランと一緒にそちらへ。わたくしとジュール隊長らは司令室へ向かいます」

 ラクスはそう言ってにっこり笑うと、きびすを返した。
 イザークやディアッカ、シンとルナマリアもその後についていく。
 カガリは、そんなラクスの背中から視線を逸らすと、アスランやキラと顔を見合わせ頷いた。

 ――早く、オーブを助けなければ。

 誰かの手に奪われる前に。